南北に長く、周囲を海に囲まれた日本では、春夏秋冬と呼ばれる四季のもとで、野と山と海の幸がもたらす季節の恵みを楽しむ食文化が発展しました。
また日本人は、古来より季節感を大切にしながら生活を育み、暮らしを彩っていくなかで、様々な暦を使ってきました。立春や夏至、秋分など季節の訪れを表現する「二十四節気」やより繊細に季節の移り変わりを表現した暦「七十二候」など、暦は季節を伝えるとともに農作業の目安としても利用され食文化に大きく関わってきました。
「四季のTeishoku」では、四季折々の食材が伝える季節感を楽しむことの魅力を、日本人の日常食である定食(Teishoku)で表現するとともに、現代に受け継がれる暦と食の関わりを紹介いたします。
旧暦の月切りでは一月二月三月を指し、二十四節気に基づく節切りでは立春から立夏の前日までを
指す“春”。4月が大きな区切りとなっている現代では桜が咲く頃が春という印象ですが、
旧暦では寒さ厳しい冬からうららかな春へと移りゆく様を五感で感じることができる、
一番美しい季節を春としています。
頬を切るように冷たかった風が少しずつ湿り気を帯びた暖かいものになり、
草木が芽吹いて、眠っていた生物たちが動き出す・・・
・・・そんな一年で一番躍動的な季節が、今、始まろうとしています。
二十四節気の第一番目である立春。毎年2月4日頃なので、「節分の翌日」と覚えている方も多いでしょう。
それもそのはず、節分とは"節"の"分"かれ目のこと。まさに節が変わり、新しい一年が始まる日が、
立春なのです。暦が変わった今でも元旦に"新春" "迎春"という言葉を使うのは、旧暦を使っていた頃の
名残と言われています。
ちなみに立春という漢字から小春日和のように暖かい日を想像しがちですが、実際はむしろ逆。
一年で一番寒い日で、この日を境に少しずつ寒さが和らいでいくそうです。
そのため「今日は立春だから」と薄着せず、これからやってくる
春を待ちながら温かく過ごすのが正解。
日本人なら誰もが心浮き立つ春を迎えるまで、
もう少しの辛抱です。
ひなまつりメニューの定番である「ちらし寿司」。見た目も鮮やかで、子どもたちが食べやすい甘い味つけが人気です。盛りだくさんの具材にはおせち料理と同じく、海老は腰が曲がるまで長生きできるように、れんこんは将来の見通しがきくようになど、それぞれ大切な意味が込められています。
平安時代から「貝合わせ遊び」にも使われる蛤は、
蝶つがいの部分が対になっている貝殻としか
ぴったり合わないことから、
仲の良い夫婦を象徴する食材。
「一生を一人の人と幸せに添い遂げられるように」
という願いが込められた縁起物です。
この時期になると京都の和菓子屋でよく見かける和菓子「ひちぎり」。
突き出た部分が貝の蝶つがい部分を表し、真珠を産み出す二枚貝「あこや貝」を模しています。
節分といえば、「鬼は〜外」という掛け声とともに行う豆まき。京都でも同様に行います。少し面白いのが、年齢の数にひとつ足したお豆をいただいた後、「頭がよくなりますように」「健康でいられますように」などと願いながら残った豆を半紙に包んだもので体をさすり、後方に投げること。
翌日に掃除をして拾った豆を、近所の氏神様に納めに行くまでが、節分の恒例行事です。最近では大阪発祥といわれる恵方巻が全国的に定番になっていますが、かつての京都では祇園など華やかな花街のみで行われていたと聞いています。
そして節分の食事といえば、鰯の塩焼きとほなが汁。
賑やかな豆まきの行事とは反対に、ハレの日の献立のような華やかさはありませんが、大事な行事食のひとつです。甘みと旨みがぎゅっと閉じ込められた切り干し大根は、赤出汁となじんでとても優しいお味。
これからも日本の伝統的な習慣として、残していきたいですね。
焼くときに出る臭い煙が鬼を払ってくれる鰯は、塩焼きできゅっとかぼすを絞っていただきます。幼な心に「なぜ節分に鰯なのだろう?」と思いながら、食べていた記憶があります。ぜひ今年はお子さんと節分のことや食べる理由を話しながら鰯を召し上がってみてください。
立春が元旦にあたるので、節分はいわば大晦日。
細く長い形状が長寿を意味して縁起が良いとされる年越しそばのように、細長いものを食べたい日です。そんなときに食べるのが、切り干し大根が入った「ほなが汁」。お蕎麦のように長くカットした切り干し大根を、赤出汁でいただきます。