南北に長く、周囲を海に囲まれた日本では、春夏秋冬と呼ばれる四季のもとで、野と山と海の幸がもたらす季節の恵みを楽しむ食文化が発展しました。
また日本人は、古来より季節感を大切にしながら生活を育み、暮らしを彩っていくなかで、様々な暦を使ってきました。立春や夏至、秋分など季節の訪れを表現する「二十四節気」やより繊細に季節の移り変わりを表現した暦「七十二候」など、暦は季節を伝えるとともに農作業の目安としても利用され食文化に大きく関わってきました。
「四季のTeishoku」では、四季折々の食材が伝える季節感を楽しむことの魅力を、日本人の日常食である定食(Teishoku)で表現するとともに、現代に受け継がれる暦と食の関わりを紹介いたします。
1年を24の区切りに分けた暦「二十四節気」における夏は、5月上旬の立夏から始まります。
この頃は梅雨を控えて気温と湿度が上がり、植物も動物も活き活きと成長する季節です。
野山の新緑はますます瑞々しく鮮やかに、田んぼのかえるたちも高らかに鳴き始めます。
遥か昔から変わらず続いてきた自然の営みを通して、
私たちのところにも少しずつ夏がやってきます。
二十四節気の夏は5月上旬から8月上旬まで。汗をかくことが多く食欲がなくなる時期は、旬の食材を使った定食でおいしく栄養を摂りたいものです。日本では季節の移り変わりを追いかけて様々な食材が旬を迎えます。夏といえば、なんといっても瑞々しい夏野菜です。太陽の光をたっぷり浴びて育ったかご盛の立派な野菜は、暑い季節の疲労回復を助ける栄養が詰まっています。うまみが最高なだけでなく、栄養価も高く値段も安い三拍子揃った旬の食材をふんだんに取り入れた、夏の定食をご紹介します。
この時期のいんげんは、瑞々しい柔らかさと豆の味わいが特徴です。これに日本独自の野菜のひとつ茗荷を合わせ、こくのある胡麻和えにしました。
献立の名脇役である和え物は、旬の野菜をおいしくいただくことができる日本古来の手間隙をかけた調理法です。絶妙な食感に茹であげたいんげんがもつ素材のうまみを、香ばしい胡麻の衣が引き立てます。
初夏を告げる定番ご飯です。この季節だけの辛味が穏やかで、みずみずしい新生姜を千切りにし、お揚げと一緒に昆布と鰹の出汁でふっくらと薄味に炊き上げます。
新陳代謝を活発にし、発汗作用を高めて食欲増進の働きもあるとされる新生姜を炊き込みご飯でおいしくいただきましょう。
6月から8月にかけて脂がのる、活きのよい鯵をからっと揚げて、太陽の下で真っ赤に育ったトマトを合わせた彩りも美しいマリネです。
トマト本来のうまみを引き出す隠し味の柑橘系ジャムが、夏にぴったりな甘みと酸味のバランスで食欲を誘います。日本の爽やかな夏の香草、大葉を散らして。
半夏生(はんげしょう)は七十二候のひとつで、七月上旬頃です。梅雨の終わりごろにあたり、半夏生と呼ばれるドクダミ科の草に小さな白い花が咲く時期で、花に近い葉の一部が白くなり、化粧をしたように見えるため「半化粧」という別名ももっています。一方で半夏(烏柄杓)という薬草が生える頃ともいわれ、いろいろな説があります。
暦が生活に深く根付いている農家では、この時期までに田植えを終わらせないと、稲が生育せず秋の収穫が大きく減るとされています。
梅雨の終盤にあたるこの時期には、関西を中心としてたこを食べる風習があります。半夏生までに田植えを終えた農家が豊作祈願をし、八本足をもつたこのように植えた稲がしっかりと根付くことを祈ったといわれています。無事に田んぼや稲が梅雨を乗り越え、秋の豊作を願う気持ちが食文化にもこめられているのです。
ゆっくりと柔らかく煮たたこに、小芋とオクラを合わせた冷やし鉢です。新鮮なたこの滋味を、繊細な口当たりの小芋と夏を感じる歯ごたえのよいオクラが引き立てます。
たこには疲労回復に効果的とされるタウリンが豊富です。暑さと湿気で体調を崩しがちなこの時期に、身体に優しくひろがるおいしさと栄養が詰まっている一品です。