南北に長く、周囲を海に囲まれた日本では、春夏秋冬と呼ばれる四季のもとで、野と山と海の幸がもたらす季節の恵みを楽しむ食文化が発展しました。
また日本人は、古来より季節感を大切にしながら生活を育み、暮らしを彩っていくなかで、様々な暦を使ってきました。立春や夏至、秋分など季節の訪れを表現する「二十四節気」やより繊細に季節の移り変わりを表現した暦「七十二候」など、暦は季節を伝えるとともに農作業の目安としても利用され食文化に大きく関わってきました。
「四季のTeishoku」では、四季折々の食材が伝える季節感を楽しむことの魅力を、日本人の日常食である定食(Teishoku)で表現するとともに、現代に受け継がれる暦と食の関わりを紹介いたします。
暦上は立秋から立冬の前日までとされる秋。残暑が残る初秋はまだ夏気分が抜けませんが、
少しずつ爽やかな風が吹き、秋の訪れを感じさせます。
気候が良く過ごしやすい秋は、行事や行楽の季節でもあり、秋祭りに収穫祭、月見に紅葉狩り
と、夏には少なかった「ハレ」の文化を多数生み出しました。
それらは今でも、現代人が自然と戯れる貴重な機会になっています。
二十四節気の秋は、8月上旬から10月上旬まで。立秋というと「秋の始まり」と思いがちですが、暦の上では暑さの頂点。しかし秋は「食欲の秋」という言葉もあるほど、春と同様に食材が豊富な時期。多くの味覚が収穫できる季節でもあります。
たわわに実った果実や、黄金色に輝く稲穂、そして脂がのり始めた旬の魚・・・
いつの世も心高鳴る、まさに「天高く馬肥ゆる秋」なのです。
萩の花:秋にピンクの花を咲かせます
『万葉集』で一番多く詠まれた萩の花。かつては山野に自生する、とても身近な花でした。草冠に秋と書いて「萩」と読むように、秋の代表的な植物で、開花時期と収穫期が重なることから、「豊穣のシンボル」とも言われています。
萩ごはんは、萩の花弁を小豆の赤で、丸い小さな葉を枝豆の緑で表したもの。昆布とともに薄い塩味で炊き上げたごはんは、とても上品な味に仕上がります。
万国で秋に収穫される栗。日本のみならず、中国を始めとしたアジア諸国やヨーロッパでも、「旬の食材」として料理に使われています。たとえばヨーロッパの栗はねっとりとしていて、少し癖のあるジビエにぴったり。それぞれの土地で育った栗の特性を生かして、メニューが完成されているのです。
日本原産の和栗は、気候や風土で大きく味が変わりますが、総じて果実が大きく、風味が良いのが特長。ほくほくとした食感と優しい甘みが、鶏肉の旨味をさらに引き出します。
秋刀魚より早く秋の訪れを告げるかますは、脂の乗った白身魚でとても品のある味。小さいものは干物に、大きいものは三枚におろして塩焼きにし、すだちをきゅっと絞っていただきます。
着物の裾の両端部分を褄と呼び、その褄を折り返すようにして焼くことから「褄折焼き」と呼ばれる焼き方は、火が通りづらくなるため、高度な焼きの技術が要求されるもの。そのひと手間が客人を喜ばせ、見た目の美しさを生み出すのです。
夏の終わりの野菜を紫蘇と共に漬け込こむ柴漬け。「走り」「旬」「名残」と三段階で食材を楽しむ日本食において、夏の「名残」を楽しむ一品です。
江戸時代に定められた5つの節句の中で、一年最後の節句にあたる9月9日「重陽の節句」。
古来より奇数は縁起の良い陽数と考えられており、一番大きな陽数(9)が重なる「重陽」は、不老長寿や繁栄を願い、最も盛んに行われていました。
「重陽の節句」が「菊の節句」と呼ばれ始めたのは、平安時代以降。旧暦の9月9日は新暦の10月中旬にあたるため、中国から渡来した菊がとても美しい季節でした。花とともに行事も渡来し、古来より薬草としても用いられ、「延寿の力がある」と言われる菊の花びらを酒に浮かべて酌み交わしたり、前夜に菊の露を染み込ませた綿で身体を拭う習慣があったと言われています。
菊の花は、日頃あまり口にする機会はありませんが、今年の重陽の節句にいかがでしょうか。