「生物多様性と米文化~米食を通して日本の生物多様性保全を考える~」オンラインイベントを開催

2023.07.03

日本の米文化を守っていく プレナス米文化継承活動

米文化継承活動の一環として、日本の米文化の素晴らしさを研究し発信する「Plenus米食文化研究所」は、生物多様性の回復を目標に掲げて活動をしている世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)の久保優氏をゲストにお迎えし、“生物多様性と米文化”スペシャルトークを開催しました。「生物多様性と米文化~米食を通して日本の生物多様性保全を考える~」と題し、「水田環境と生物多様性」についてのトークをご紹介します。

対談者プロフィール

  • 久保 優WWFジャパン自然保護室淡水グループ


    修士課程修了後、国際協力機構(JICA)にて開発途上国向けの農業農村開発、水産資源管理、森林環境保全等のプロジェクト形成・監理に従事。2021年9月にWWFジャパンに入局し、国内の水田生態系保全、海外の繊維関連プロジェクトを担当。

  • 八谷 中大Plenus米食文化研究所 所長


    1996年プレナス入社。営業部、商品開発部、マーケティング部を経て、2017年からPlenus米食文化研究所に従事し、「米」にまつわるさまざまな生活文化や歴史、美しい日本の食文化の研究、発信活動に携わる。

「生物多様性と米文化~米食を通して日本の生物多様性保全を考える~」

WWFの取り組みについて

八谷
まず、久保さんが所属されているWWF様のご紹介をお願いします。

久保
我々WWFは、人と自然が調和して生きられる未来を目指して活動している国際環境NGOです。事務局はスイスにあり、世界100カ国以上で活動している団体です。2大目標として「生物多様性の回復」と「脱炭素社会の実現」を掲げて活動を進めております。

 

水田環境の生物多様性

八谷
今日のテーマは「生物多様性と米文化」ですが、WWF様とのご縁のきっかけは、前回の米文化スペシャルトークのゲスト佐藤先生のご紹介でした。WWF様の活動の内容をお聞きして、お米の生産の場である水田やその周辺の環境は、実は生物多様性が豊かであるということを改めて知りました。今回のテーマ「生物多様性と米文化」にあるとおり、この2つの関係性を皆様にも知っていただけたらと思います。

久保
水田や水路の生き物と聞かれたときに、どういった生き物を想像するでしょうか。例えば、ツチガエル、アオダイショウ、ダイサギ、チュウサギといった生き物です。多様な生き物が生息している環境というのが水田・水路になります。

さらに、魚類に注目してみると身近なものとしては、ナマズやギンブナ、ドジョウといったものもいますが、ドジョウも近年かなり数が減っていることが報告されています。また、例えばタナゴの仲間もかつては、水路の生きものとして生息していましたが近年、特に減少が著しいです。タナゴの仲間は、淡水に生息する二枚貝に産卵するという特性を持っているので、二枚貝とセットで保全しなくてはいけません。

八谷
本当に色んな生き物がいますね。水田・水路でひとつの生態系が出来上がっているぐらい生物多様性が豊かな環境だなと、このような生き物たちを見ながら感じました。

 

水田環境はなぜ生物多様性が豊かなのか

久保
元々の水田の成り立ちを考えてみると、自然の氾濫原だった場所を活用して水田が成立してきたものと思います。氾濫原は季節的な自然のサイクルで、一時的に水没するような環境をいいます。例えば大雨や洪水、梅雨のような継続的な雨が降った時に水没する場所を指します。このような環境は物理的な撹乱
※1が多く、そういった場所を好む生き物もいます。例えば、ドジョウ などは水没した草むらに卵を産みつけます。水田は彼らの生息域、生育域としてうまく機能してきたということが言えるかと思います。

※1撹乱とは生態系を破壊して、その維持に影響を与えることをいい、台風・火山の噴火・河川の氾濫などの自然災害があげられる。撹乱の規模が大きすぎても小さすぎても生物の種類は少なくなるが、中規模の撹乱では種の多様性につながるといわれ、中規模・一定頻度の撹乱が生物多様性を大きくさせるという説を中規模撹乱説という。

八谷
日本の米作りの歴史を見ていくと、日本人は氾濫原を灌漑、干拓技術などを使って水田に作り変えてきました。日本人は氾濫原の特性を維持しながら、それを水田という生産の場に変えてきたと思います。その適度な撹乱が人為的にも維持されることによって多様な生き物が生きられる環境が生まれてきたんですね。

 

生き物に優しい環境とは

久保

淡水の生き物にとって望ましい環境は、灌漑期と非灌漑期で水位が違って、灌漑期に水が増水すると水没するような抽水植物※2などが存在する移行帯※3がある環境です。移行帯や水際の植生みたいなところが、生物多様性にとって凄く重要なポイントですが、そのような環境が減ってきていることが問題です。

※2抽水植物とは水底に根を張り、茎の下部は水中にあるが、茎や葉の一部が水面上に出ている植物の総称。
※3移行帯とは河岸や湖沼の沿岸等、生物の生息環境が連続的に変化する場所を指し、多様な生物の生息場所となっているため重要視されている。

このような課題は以前から報告されていましたが、近年も加速度的に圃場整備が進んでいます。農家さんの高齢化や担い手不足等の社会的な背景もあいまって、施設として管理がしやすく、強靭な水路が欲しいということは、よく農家さんや行政の方からも伺います。さらに、最近の特徴としては、気候変動、災害の激甚化といったところも、この傾向に拍車を掛けているのではないかと考えています。この写真を見ると、どちらが生物多様性が豊富かは一目瞭然です。右側は3面張りコンクリートで囲まれた水路で、左側の水路は片側が木柵になっていて、土で覆われています。これは移行帯になるような植物の連続性が保たれて、水路には水草が茂っていることで、豊かな環境を作っている事例です。

 

ここまでの説明では、改修によるネガティブな影響を強調してきましたが、上述のとおり、気候変動や担い手の不足や高齢化を踏まえると、農業の近代化も急務です。我々は、「水田・水路の改修に反対」という立場ではなく、水田・水路で多様な生物と共存することの意義に着目し、どうしたら両立・共存できるのかということについて、その具体的な方法の検討を進めてきました。WWFジャパンは地方自治体、農家さんといった地域のアクターとの連携を通して、生物多様性と農業の両立を可能にするモデル事例づくり※4を進めています 。

※4WWFジャパンでは各分野専門家のご協力のもと、農業を近代化させつつ、生きもの生息に配慮した、水路の整備改修の実用的な工法をまとめたポイントブックを作成。ポイントブックはこちら

生物多様性のために我々ができること

久保
最後に我々が大切にしているのが、地域の皆様と共に活動していくことです。我々WWFは、さまざまな研究者や地域行政の担当者、地元の農家さんと共に活動させていただいており、地域の理解があってこその生態系保全と考えております。例えば、地域の若い世代の人たちに対して、農家さんと一緒に生物観察会を実施することで、地域の「資源」に気付いてもらうということを、非常に大切に考えています。

農家さんの中には、なかなか水田の中を覗くことが少ないという方もいらっしゃるので、「この生き物はうちにもいるな」という気付きがあったり、「探してみたらいたよ」などの声も聞かれます。また最近は事故防止の観点から、子供たちが水辺の環境から足が遠のいているということもあります。通学路の水路に、こういう生き物がいるんだというような新鮮な驚きや気づきも、地域の生態系を守っていくための重要な要素と考えています。

八谷 
水田やその周辺環境の生物多様性の豊かさは、米文化の持つ貴重な価値です。一方で米離れや農業の担い手不足、高齢化により、その水田環境そのものを維持することが難しくなってきています。単に米の消費を回復するだけでは、生物多様性は回復しないかもしれませんが、まずは我々消費者が生産の現場に興味関心を向け、消費行動や地域の農業に関わるなど、もっと具体的な行動を起こさないといけませんね。

 

参加者からコメントをいただきました

オンラインイベントの参加者から、取り組みに対するご意見を賜りましたので、その一部をご紹介します。

◇普段は「ほっともっと」ではおかずしか買わないが、ごはんにこだわりがあるということを知ることができたので、お弁当を買ってみたり、ビビンバを食べたいと思いました。

◇何気なく食べていたお米を見直すきっかけとなりました。

◇お米を通して農業や自然環境に積極的にアプローチしようとする、前向きな姿勢に共感しました。

◇チェーン店なので効率・利益最優先なイメージがありましたが、素材をこれほど大切に考えていることを知り、「ほっともっと」でお弁当を買ってみたくなりました。

◇売ることだけではなく、環境や文化まで考えて活動されていることに感心しました。これからも継続してください。

 

これから人類が目指していく持続可能な社会において、重要なテーマのひとつである「生物多様性」ですが、実は我々プレナスが基幹商材としている「米」が生産される水田とその周辺環境こそ、「生物多様性」の宝庫なのです。「ほっともっと」や「やよい軒」などの事業の継続的発展は、多くのお客様によって支えられていますが、そのことは「生物多様性」にも貢献しているといっても過言ではありません。一方で農業現場における、さまざまな課題が「生物多様性」に影響を与えているという現実もあります。米文化継承活動を通じて、日本の米文化の持つさまざまな価値や、それを支えている現場の課題を、一人でも多くの方に知ってもらう機会になればと思います。

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