展示内容

Exhibition
2023.12.28まで

「米の徳」藁・籾殻・糠

「豊葦原瑞穂国(とよあしはらみずほのくに:稲が豊かに稔り栄える国)とは、古来からの日本の美称です。かつて稲作は国の産業の中心でした。大切に育てられた稲は、食料としての米だけでなく、刈り取り脱穀・籾摺りした後の「藁(わら)」や「籾殻(もみがら)」、精米した後の「糠(ぬか)」も余すところなく活用しました。

江戸時代の農書『米徳糠藁籾用法教訓童子道知辺(こめとくぬかわらもみもちいかたきょうくんどうじのみちしるべ) 』(文久元年/1861)では、「藁」「籾殻」「糠」を「米の徳」として、いかに優れているかを述べ、特徴、食べ方、加工、暮らしへの利用法を事細かに記しています。これらは決して余剰物や廃棄物ではなく、命をつないでくれる稲・米への敬意と感謝が「生(活)かしきる」ことにつながっています。 

時代とともに日本人の生活も変わってきましたが、今回は「藁・籾殻・糠」の活用に目を向けてみたいと思います。生活の中で新しい命を得て生かされている「藁・籾殻・糠」、そこに人々の知恵と工夫や循環の思想も見ることができます。

監修・解説 権代美重子(食文化研究家)

藁の利用

藁は、稲の茎を乾燥させたもので、乾燥させることで腐りにくく保存しやすくなります。細い割に強度もあり、編んで縄にして、更にその縄を加工して様々な日用品が作られ、生活の場で利用されてきました。そのまま使う場合もありますが、藁は一度打って柔らかくしてから細工しました。かつて、農家には藁打ち用の藁打台・槌・杵などの道具が必ずありました。
藁の利用で最も多いのは田畑への有機物肥料としてのすき込みでした。また、家畜の飼料としても使われました。

衣・住への活用

農閑期には、藁を使って家族全員の一年分の「草鞋(わらじ)」と「蓑(みの)」を作りました。
雪国では「雪沓(ゆきぐつ)」が作られました。雪沓は保温性があり滑りにくく雪が浸みてこないという特徴があります。
「蓑」は藁を編んで作った雨具ですが、防雪、防寒、陽除けなどとしても使われました。また、「背中蓑」は荷物を背負うときの背あてとして、「腰蓑」は田んぼでは泥除け用に使われました。

藁は屋根材や壁材として使われました。藁葺屋根は通気性や保温性、吸音性に優れています。腐食や虫の発生を防ぐため、屋内に囲炉裏を設けその煤を付着させて耐久性を強化しました。
古い木造の家では壁材として、藁を土に混ぜて塗り込みました。強度を増すととも土壁の乾燥によるひび割れ防止にもなりました。
部屋の敷藁・藁蒲団・敷筵(しきむしろ)・円座・揺り籠・縄暖簾(なわのれん)も作りました。畳の中の芯にも使われています。

食への活用

米は藁で編んだ「米俵」に入れて運送しました。「米飯ふご(めしふご)」は、 米櫃をすっぱり包んで保温する容器、「菰(こも)」は酒樽の保護用です。

稲藁には納豆菌がついているため、煮た大豆を稲藁で包んでおくと「納豆」が作れます。「稲藁の灰」は、わらび、ぜんまいのあく抜きにも利用されます。

●籾殻の利用

籾殻を焼いて黒く炭化させた燻炭(くんたん)は苗代の保温材として使用されました。家畜小屋では牛・馬・鶏の敷料として用いられ、その後は堆肥の材料となりました。
果物や卵を箱詰めするときには、緩衝材、保温材として使われました。

●糠の利用
糠は米を精米するときに削られた部分で、脂肪、たんぱく質、ミネラル、ビタミンなどの多くの栄養素を含んでいます。
家畜の飼料にしたり、生ゴミと一緒に発酵させて堆肥を作りました。家庭では野菜を漬けて漬物としました。
また、糠には油汚れを落とし肌をしっとりとさせる力があり、洗剤や石鹸、化粧品としても使われています。糠油は食用油、クリーム油、石鹸、頭髪油、ヘアトニックなどに加工されています。漆器や家具は糠袋で磨くと、いいつやがでます。

藁と信仰文化

古来、藁には不思議な霊力があるとされてきました。正月に家の戸口に飾る藁で作った注連縄は、聖と俗の領域を区切る結界の意味があります。村への悪霊侵入を防いだり、稲につく害虫を祓うのに藁人形を立てたりしました。
相撲は神事に由来し、最高位の力士は腰に「横綱」を付けることを許されました。横綱を張った力士は、神霊が降りているとされ、優れた品格・力量・技が求められます。
人々は藁に特別な願いを込めました。

正月に藁を使って注連縄を作り、家の玄関に飾ります。これは歳神様を迎えるための神聖な場所であることを示す結界であり、その家が神の家であることを示しています。
かつて、注連縄を作るために、農家では秋の収穫時に茎の長い青い藁を蓄えていました。注連縄には紙垂(しで)を垂らしますが、これは稲妻を模しており雷が鳴ると稲が良く育つので、豊作の願いを込めたものです。                              地域によって様々な注連縄がありますが、潔白な心を表す「裏白(シダの葉)」や子孫繁栄を願う「ゆずり葉」や「橙」を飾ったりします。

藁で作った馬や人形は厄除けや虫送りなどの行事で使われます。藁馬には祖霊・田の神・貧乏神・疱瘡神といったいろいろな神様が乗ってくると言われ、神送り・神迎え・招福・厄払いなどの役割を担っています。盆には藁火を焚き藁馬を作って祖霊を迎え送りました。藁人形は主に厄除けとして用いられます。
また、藁を編んで作った亀や鶴は縁起物の民芸品として人気があります。