展示内容

Exhibition
2023.10.31まで

海外のお弁当事情

近年、日本のお弁当が海外で注目され人気です。いまやBENTOは世界の共通語になろうとしています。日本のようなお弁当の習慣がない国では、小さな箱にご飯と様々に調理された彩豊かな副菜が詰めあわされたお弁当はとても新鮮で魅力的に感じられるようです。ですが、日本とは異なるその国ならではのお弁当文化を持つ国もあります。
今回は、そんな海外のお弁当文化について紹介します。主に、タイ、インド、ブータン、そしてアメリカのお弁当事情です。国は違っても「お弁当」というだけで、なんだかほっこりしたやさしい気持ちになるのは不思議です。

夏の暑さも和らぎ、秋の気配が感じられるようになりました。秋は実りの季節でもあります。黄金色に色づいた稲がしっかりと実をつけた穂を垂れ、9月から10月にかけては稲刈りのシーズンです。毎日の食事の主役、そしてお弁当の主役のご飯、感謝をこめての稲刈りです。

      監修・解説 食文化研究家 権代美重子

ブータン「ポンチュー」

ブータンの「ユラ」という竹を細く割いて編んだ2つの籠を組み合わせたお弁当箱です。少し大きい方が容器、もう一つが蓋で一組になっています。綺麗に染めた竹を編んであり、軽く、通気性と密閉性に優れているのが特徴です。この弁当箱に直接ご飯や豚肉やエマダツィ(チーズと唐辛子の煮物)などを入れて、民族衣装のゴ(男性)やキラ(女性)の懐に入れて携帯します。ひっくり返しても全く漏れません。食べるときは混ざってしまっているのですが、気にせず素手で丸めて食べます。ブータンの家庭には必ずいくつかあり、お弁当箱としてだけでなくスナック入れや小物入れなどいろいろな用途に使われています。

韓国「柳行李」

柳を水で浸し、柔らかくして編み上げた柳行李。通気性がよく食材の保存など暮らしの道具として使われてきました。旅に出る際や、畑仕事をする時などのお弁当箱として使われていたそうです。縁の部分は松で仕立てられ、葛で束ねられています。

タイ「ピントー」

段重ねの持ち手がついた携帯用の弁当箱です。16世紀から17世紀にタイのアユタヤに山田長政が築いた日本人町がありました。最盛期には約3000人の日本人が住み、日本さながらの生活をしていました。ピントーは日本の携帯弁当箱「提重」がタイに広がったものです。名前も「ベントー(弁当)」からきています。展示の「ピントー」はステンレス製ですが、ステンレスが誕生したのは1910年代、それまでは木製でした。今はプラスチック製のものもありますが、「ピントー」に日本とタイの交流の歴史を見ることができます。

インド「ダッバー」

段重ねの金属製の弁当箱で、ご飯や汁物、揚げ物などの副菜を分けて入れることができます。インド全土で多くの人々に愛用されています。大都市ムンバイにはお弁当箱を運ぶ「ダッバーワーラー」という職業の人達がいます。ダッバーワーラーは、各家庭からお弁当を集めて各自の職場まで届け、食べ終わったら回収して家庭に戻します。インドでは宗教によって禁忌の食品があるため、お弁当は家族が作った確かなものでなければなりません。
そこからダッバーワーラーという仕事が生まれました。100年以上の歴史を持つ高度に組織化されたビジネスとなっています。すべて人力によって運営されますが、配達ミスは弁当600万個につき1個の割合という正確さです。2013年公開のインド映画「めぐり逢わせのお弁当」は、ダッバーワーラーの配達間違いからストーリーが始まりますが、お弁当がつなぐ人と人の交流の温かさが話題となりました。

お弁当箱を運ぶ「ダッバーワーラー」
出典:Joe Zach//Wikimedia
お弁当箱を運ぶ「ダッバーワーラー」    
出典:Jonathan Silberman//Wikimedia

アメリカ「ランチャブルズ」

学童用の市販のお弁当です。簡便第一を考えるアメリカでは、ランチは紙袋にりんごやクラッカーなどを入れただけ、というのが普通でした。近年人気となっているのが、この「ランチャブルズ」です.四角い紙箱の中にプラスチック成型の仕切りのある箱が入っていてそれぞれにハムやチーズ、クラッカーなどが入っています。一つの箱に異なる食品が詰め合わされているのは日本のお弁当のスタイルによく似ています。中に入っているのは既製品のクラッカーやチーズなどばかりですが、自分専用のランチとして学童に好評です。2ドル99セントから6ドル99セントで、スーパーで大量に売られています。

アメリカ「ブラウンバッグ」 

「ブラウンバッグ」(茶色の紙袋)は、アメリカでもっとも一般的な弁当用の袋です。
袋の中に市販のクラッカーやスナック、りんごなどを入れて携行します。軽く嵩張らず、食べた後はそのまま捨てられ、あとは身軽、という簡便さがアメリカ人気質に合い、大人も子供も通勤・通学・行楽などに気軽に利用しています。ランチボックス持参の子供もいますが、学校でも遠足のときには「サックランチ(sack lunch)持参」と指定することもあります。「サックランチ」とは「ブラウンバッグ」や「ジップロック」など使い捨ての袋に入れたお弁当のことを言います。「ブラウンバッグ」はスーパーで50枚、100枚単位で1ドル程度からの手軽な値段で売られています。

アメリカ 児童用お弁当箱「bento box」

2015年にシカゴタイムズ誌で「仕切りがありさまざまな食品が詰められて楽しめる。しかも繰り返し使えて環境にやさしく経済的」と紹介されたことから注目されるようになりました。プラスチック製の箱で携帯用の取っ手がついており、中の容器にはいろいろ入れられるように仕切りがあります。市販品のパンやチーズなどの乾き物が多かった従来のお弁当に、ちょっとした野菜や果物も入るようになりました。マンガのキャラクターが描かれものなどいろいろあり、子供たちには「自分専用のお弁当箱」として好評です。「bento box」の名のように、日本のお弁当箱の影響です。


稲刈りのシーズン

苗床で育てた苗を田植えし、手間をかけ大切に育ててきた稲が秋に実ります。生産地、栽培方法や品種などによって異なりますが、1粒の種籾からの収穫量は、約400倍になります。米は日本人の主食です。実りに感謝しながら稲刈りをします。今は機械化が進みましたが、以前は人が鎌を使って手作業で刈り取りました。刈り取った稲は束ねて稲架(はさ)にかけ、天日と風で乾燥させました。そうすることで、米の長期保存と旨味の保持ができるようになります。かつて、子供たちは「米」という字の八十八にかけて「米には八十八回のお百姓さんの手間がかかっている。そのことに感謝し一粒たりとも残してはいけない」と教えられました。

プレナスの米育活動と米づくり事業

プレナスは茅場町オフィス(東京都中央区)の屋上の小さな田んぼで、米づくりを通じて米食文化の大切さを学ぶ「あおぞら田んぼプロジェクト」を2020年から行っています。4年目を迎えた本年も5月の田植えに始まり、9月の稲刈り、そして脱穀・籾摺りまでを阪本小学校の児童たちと一緒に行い、都会での米づくり体験の場を提供しています。

また、2021年2月より農地を借り受け、実際に米づくりにも取り組んでいます。国内のお米は農業従事者の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の増加もあり、生産量が減り続けています。スマート農業を取り入れた生産性の高い稲作経営を確立することで、これらの課題解決の一助となるよう、全国三か所の農場(埼玉県加須市、山形県三川町、大分県宇佐市)で日々社員が奮闘しています。