展示内容

Exhibition
2021.7.1~8.31

旅とお弁当

日本の本格的な旅は奈良時代の納税のための旅から始まりました。
その役を担った「運脚」は、集落中の納税品(約40~50㎏)をかついで徒歩で都まで運びました。携行したのが「糒」です。蒸した米を乾燥させたもので、軽く、かさばらず、腹持ちが良く、保存が効くのが特徴でした。「糒」は、長く旅の携行食の定番でした。
楽しみのための旅が始まったのは江戸時代からで、伊勢参りの旅が大流行しました。お弁当は旅の必携品、人々は宿でお弁当を作ってもらい振分荷物にいれて旅しました。おにぎりに梅干し、沢庵を竹皮に包んだものが一般でした。竹で編んだ弁当箱を持参し詰めてもらう人もいました。往来頻度の高い商人は道中弁当箱を持参しました。
明治時代に鉄道が開通すると、鉄道で旅する人のための「駅弁」が登場します。
お弁当は、空腹を満たすためだけでなく旅の楽しみでもありました。


監修・解説:権代美重子(食文化研究家)

金属製の三段の弁当箱を竹の網代編の容器で包んだ弁当箱。頻繁に旅をする商人向けに堅牢に作られ竹製の外容器が季節の寒暖差の緩和の役を果たしている。真ん中が膨らんだ形は「ぶりぶり」を模しており、道中の厄除け、無事を祈る思いが込められている。

これは、茶道において初釜で一年の無事を祈る縁起物の香合である。もともとは江戸時代の幼児の玩具で八角形の真ん中が膨らんだ槌形をしているのが特徴。車輪と紐をつけ引っ張って遊んだ。引いたとき「ブリブリ」と音がしたのが名前の由来である。子供の無事の成長を祈る気持ちから、やがて厄除け・家内安全を願う正月用の床飾りとして普及した。

「糒」(「ほしい」「干飯・かれいい」ともいう)は、そのまま口に入れて唾液でふやかしたり、水か湯でふやかして食べた。米を蒸した後乾燥させたもので、一度火を入れているので米の澱粉質がアルファ化していて消化が良く、腹持ちがいいのが特徴である。保存性が高く、20年以上保存できるという。 

時代ごとの糒物語

平安時代の「伊勢物語」の東下りの段に旅の携行食として「糒」が登場する。戦国時代は「兵糧」の主なるものであり、非常用の備蓄も義務づけられていた。江戸時代野飛脚は手紙の他配達する荷も背負い江戸・上方間を3日で走った。荷の重さは約40kgあった。その飛脚の携行食も糒であった。第二次大戦時には、炊飯せずに食べられる食糧として「アルファ米」が開発された。近年では災害時や山岳登山用の食糧としても活用されている。

道明寺(大阪府藤井寺市)で菅原道真公の伯母・覚寿尼が、道真公の大宰府での安全を祈願して供えていた陰膳のお下がりが病気に効くと評判になり、その後あらかじめ乾燥、貯蔵するようになったものが発祥といわれる。水に浸けた糯(もち)米を蒸しあげ乾燥させた後、石臼で挽いて仕上げる。

「アルファ化米」の語源は、生米の様に体内消化できないデンプンを日本独自の呼び方で「ベータデンプン」、ご飯のように消化できるデンプンを「アルファデンプン」と呼んだことから、「アルファデンプン」を維持しているお米ということで「アルファ化米」となった。 
「糒」との製造における基本的工程は同じであるが、条件の違いは乾燥時間。「糒」は天日乾燥のためゆっくり乾燥したが、今は温風により短時間で乾燥する。この為、衛生的で品質が安定する。また乾燥時間が早いと、水の吸水力が上がるので早く戻る特徴を備える。名前はカタカナに変わっても日本の古来から伝わる加工米技術は継承されている。

協力:アルファー食品株式会社

葉っぱで包む食文化

古来から、蓮・朴・柏などの大きな葉が食材包みとして用いられてきた。ホオノキの「ホオ」は、「包(ほう)」の意味に由来する。クマザサや竹皮なども用いられた。これらの植物の葉には殺菌・抗菌効果があり、食材の保存に適している。また、葉の持つ香りや色も楽しんだ。近年、廃棄しても土に還るので環境保全面からも見直されている。

「明治18年(1885) 、日本で初めて販売された駅弁。日本鉄道(現JR東日本) の東北線宇都宮駅開業と同時に、宇都宮駅前で旅館を営んでいた白木屋が販売を始めたという記録が残っている。ごまをまぶしたにぎりめし2個とたくあんを竹皮に包んだもので、5銭であった。

江戸時代中期、花見時の土産として人気があったのが「桜餅」。隅田川沿いの長命寺の門番が、桜の落葉を塩漬けにして餡入りの餅に巻いて門前で売り出したのが始まり。『兎園小説』(※曲亭馬琴他編・文政7年/1824)に、一年に77万枚の桜の葉を漬けて38万7500個の桜餅を売ったとあり、人気のほどがわかる。由来から、江戸では「長命寺餅」、上方では藤井寺にある道明寺由来のもち米を粗くひいた道明寺粉を使用した桜餅が作られており「道明寺餅」と呼ばれている。

「五月五日の端午の節句に供える餅菓子。平らな円形にした新粉もちに餡を入れて二つ折りにし、柏の葉で包んで蒸したもの。柏の葉は新芽が出てから古い葉が落ちるので、男子の成長と子孫繁栄を願い、武家の間で縁起が良いとされた。旧来は粽(ちまき)を供えていましたが、江戸中期以降、柏餅を備えるようになったという。