お米づくり
お米のつくり手
山形の後世に伝える
米づくり
仲間と協力し合い、
美味しいお米を
追求する歴史
まだ山頂に雪を残す蔵王連峰の山々に見守られた、山形盆地。遠くまで広がる圃場には、最上川水系の栄養たっぷりの雪解け水が湛えられている。盆地の夏は暑いが、夜になると東の山から涼しい風がそよいでくる。この昼夜の寒暖差が、お米の一粒一粒に旨味を蓄積していく。
ここ南沼原地区で栽培されているのは、山形の基幹品種である「はえぬき」とブランド品種の「つや姫」「雪若丸」だ。5月下旬に植えられた稲は、柔らかい土の中で初夏の日差しを浴びてゆっくりと根を張り、葉の色を少しずつ濃くしていた。
この地に生きる人達は、豊かな土壌と水源を活かし、古くから稲作を中心とした農業を仲間と協力しながら発展させてきた。
山形市内の南沼原地区で活動する水稲栽培研究会は、親世代と後継者世代がしっかりと結びついている組織だ。育苗巡回、生育調査、収穫量調査、そして次年度の技術対策の検討など、28名の会員が一丸となって「うまい米」を作る技術を磨いている。8年ほど前からは会長や役員に後継者世代を積極的に登用し、IoTを活用した新たな栽培技術の検討も始めている。
「冬は当年産の作柄を振り返る勉強会を開催し、次年度の技術対策の検討を行っています。研究会の地道な活動で蓄積してきたデータを活用し、よりよい米づくりにつなげています」と会長の平吹氏は語る。
生育データを取得し、
緻密な栽培管理に
活かす
6月初旬、照り付ける日差しの中、研究会の今シーズン1回目の水稲生育調査が行われた。管内圃場の中から5か所を選び、平均的な10株の草丈、茎数、葉齢、葉色、畦間・株間を計測する。調査は10日おきに計6回実施され、集めたデータは水管理や追肥などの栽培管理に活用される。
現場では会長自ら率先して会員と共に圃場に入り、慎重に測った数字を読み上げると同時に畔に立つ人が素早くメモを取っていく。圃場の端では、親世代と後継者世代が談笑しながら、調査結果を記す看板をあっという間に設置していた。
「研究会のメンバーは、同じ集落の人達で構成されているので、みな気心が知れています。小さい頃から一緒に育った仲間達なので、チームワークも抜群なんです」(平吹氏)
地道な
土づくりが、
秋に実る
ここでは、美味しいお米を生み出す地道な土づくりにも力を入れている。稲刈りが終わった10~11月頃、気温が下がる前に圃場に残った稲藁を丁寧に鋤きこみ、腐熟を促す。そして田植えの準備が始まる4月中旬、もう一度堆肥等の有機物や土づくりの資材を散布し、健やかな稲を育む地力を高めていく。
「ここ南沼原地区の米作りは、基肥をしっかり施用した上で、稲の生育状況を見ながらその後の追肥を細かく調整していく栽培が主流となっています。収穫後のひと仕事は手間ですが、秋にしっかりと稲藁を鋤きこんだ圃場で稲がすくすく育つ様子を見て、土づくりを意識する生産者の方が増えています。美味しいお米ができるという結果は、何にも代えがたい大きな説得力を持っているんです」(山形農業協同組合 古内氏)
仲間と共に、
米づくりを
試行錯誤できる安心
自分の圃場での美味しい米づくりに留まらず、仲間達と協力して生育調査を行い、データを根拠にしたロジカルでオープンな「よりよい米づくり」を目指す研究会の活動は、南沼原地区に連綿と受け継がれてきた稲作への探求心を示している。新たな時代の米づくりに邁進する原動力とは、どのようなものなのか。
「この地区には代々続いてきた農家が多く、米づくりに必要な機械や技術が揃っているので、後継者は初期投資なく始められるという恵まれた環境がありました」(朝倉氏)
「1年を通して顔を合わせる、米づくりの仲間がいる安心感は大きいですね。1年に1回しか収穫できない米づくりでは、優れた栽培技術の共有が役立っています」(有海氏)
お米で
ほころぶ
笑顔のために
世界的な肥料や燃料の価格上昇の中、米づくりは大きな課題に直面していると会長の平吹氏は言う。しかし「ちゃんと育てれば、いいものができる」という確かな経験の中で、未来につながる持続可能な米づくりのかたちを模索している。
「学校教育の一環で近所の小学生と田植えをすることがあるんですが、秋に収穫したお米を『美味しい!』と食べる子ども達を見るたび、私たちはこの笑顔のためにお米を作っているんだと身が引き締まります」(平吹氏)
「美味しくできたお米を食べてもらうこと」という南沼原地区の米のつくり手の一番の喜びは、世代を超えてこれからも確実に受け継がれていくことだろう。