お米づくり
お米のつくり手
お米の
つくり手
福井が取り組む、
新しいお米づくりのカタチ
注目の多収量米
「つくばSD1」が実る福井
遠くまで見渡せる広大な圃場(ほじょう)。こうべを垂れる稲穂が風にそよぐ、豊かな実りの秋。ここで栽培されているのは、コシヒカリを母として生まれた新品種「つくばSD1号」。茎が短く倒れにくいため、栽培しやすくより多くの実りを期待できる注目の銘柄だ。「つくばSD1号の栽培面積は約11ha。ここで実ったつくばSD1号は、すべてプレナスに行きます。この実入り具合だと、ここはもう収穫です」と組合長の杉本さんは語る。
春から夏にかけて、圃場には清らかな足羽川の水が満ちる。以前は小さな川が水源だったが、いまは足羽川の水をポンプで入れられるようになり、広範囲の水管理ができるようになった。「真夏は水温が高く、どうしても稲が弱りがちになるので、慎重に生育状況を確認します。作り手としては、根を丈夫にした上で稲穂に栄養がいくようにしたい。余計な葉を出したくないので、分けつ数などの生育データを細かく記録しています。状況によっては、途中で深水栽培を選択することもあります」
この圃場では、25年に渡って蓄積した土壌データ(ケイ酸、リン酸、窒素)をもとに緻密な土づくりが行われている。「私が以前農協で米づくりの指導をしていたので、そのときのノウハウを活かしています。実は圃場の土壌は均一ではないんですね。中には砂が多く、肥料が流れて効きにくいところがあります。場所によって肥料を調整することで、均一で高品質な実りにつなげています」
データの裏付けでロジカルな米づくりに取り組む、
新しい組合の姿
ここでは近隣の49戸が出資して設立した組合で、米づくりを行っている。組合が生まれたのは平成18年。それまで各戸が個別に行っていた米づくりを組織化し、効率化と品質の均一化を実現した。「昔このあたりは小さな区画に分かれていたんですが、組合の発足により大規模な改修を実施し、ひとつの圃場にまとめました。うちのように全員が出資してできた組合は、福井の特徴だと思います。組合ができることで個人負担が減り、全員が対等な立場で協力する米づくりに変わりました。以前は高価な農機具を各戸で保有していましたが、いまは組合が購入したものを共同で使うことができるようになっています」
豊かな実りはつくり手の喜び
「個人の生産では、どうしても品質がバラバラになりがちです。ここでは昔ながらの勘と経験に頼るのではなく、効率とデータの裏付けを大切にしています。ロジカルな取り組みがあるからこそ、最高を目指す道のりが見えてくる。高いレベルで品質が均一化されることは、買う側の安心につながります」。
データが細かく記入された書類を手に、組合長は続ける。
「細かな調査や管理は面倒だと思うつくり手もいるかもしれません。でもそれが必ず成果に表れる。豊かな実りはつくり手の喜びです」
試行錯誤の積み重ねが、つくり手の自信につながっている
組合では未来を見据えた新しい取り組みにも積極的にチャレンジしている。
そのひとつが食品安全・環境保全・労働安全を掲げる農業生産工程管理であるGAP(Good
Agricultural Practice)だ。
「組合ではつくり手を取り巻く環境にも気を配っています。安心で安全な労働環境が維持されることで、本当の豊かな収穫が得られると考えています」。
農作業中のヘルメットは、新しい時代の米づくりを感じさせる。
心をこめて、安全安心なお米をつくる
ふっくらと実った稲穂を手にとり、「今年はできがいい」と組合長ははにかんだ笑顔を見せる。
「収穫したお米は、この後農協で品質検査を受けます。つくり手は自分のお米がどれだけ高い品質に到達したのか、確認できる場として楽しみにしています。心をこめて安全安心なお米をつくる、その熱量は負けません」という組合長のまなざしには、福井のつくり手の静かで強い気概があった。